居場所が分からない人がいる場合の手続き その1
不在者財産管理人とは、従来の住所(居所)を去って容易に戻る見込みのない不在者について、利害関係人等からの申立により、家庭裁判所で選任してもらう財産管理人のことです。
例えば、遺産分割協議をしたいのですが、相続人のうちの1人が行方不明だったとします。
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要がありますので、そのままでは遺産分割協議を成立させることができません。
このような場合、その行方がわからない方の代わりに財産を管理する者(不在者財産管理人)を家庭裁判所に選任してもらい、不在者財産管理人を加えて遺産分割協議を成立させることができます。
不在者財産管理人の役割
不在者財産管理人は、不在者のために財産を管理すること、財産目録を作成して家庭裁判所に報告することが基本的な役割です。
民法では、不在者財産管理人は、不在者の財産に関する保存行為、目的物や権利の性質を変えない範囲内での利用や改良行為を行うことができることになっています。
実際には、遺産分割協議や不動産の売却等、不在者の財産を処分するために、利害関係人からの申立により不在者財産管理人が選任されることが多いです。
ただし、これらの処分行為は、不在者財産管理人の原則的な権限には含まれませんので、不在者財産管理人は家庭裁判所の権限外の許可をもらって処分行為を代理することになります。
不在者財産管理人の役割は、申立の目的となった件が解決しても終了しません。つまり遺産分割協議の目的で選任された場合に遺産分割協議が成立しても、それだけでは終了しません。
不在者が戻ってきた場合には、不在者に財産を引き渡して終了し、失踪宣告や死亡の事実が確認された場合には、不在者の相続人に財産を引き渡して終了となります。
概要
申立する裁判所(管轄裁判所) | 不在者の方の従来の住所地・居所地を管轄する家庭裁判所 |
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申立人 |
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申立費用(実費) |
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予納金 | 家庭裁判所から数十万円~100万円程度の予納金の納付を求められる場合があります。予納金は、財産管理人の報酬の一部となります。 |
必要書類※ |
※債権者からの申立であれば、借用書、契約書等 |
手続きの流れ
- 申立から不在者財産管理人選任まで1ヶ月から3ヶ月程度要します。
不在者財産管理人が行う遺産分割協議
不在者財産管理人には、原則として財産を処分する権限はありません。不在者財産管理人が財産処分行為を行うには、家庭裁判所から権限外行為許可を得る必要があります。
遺産分割協議は財産処分にあたるので、不在者財産管理人が遺産分割協議を行うには、家庭裁判所から権限外行為許可を得る必要があります。
家庭裁判所が権限外行為許可をするかどうかは、不在者の利益が守られているかがポイントになります。遺産分割協議の場合は、不在者に法定相続分以上の相続財産が確保されていることが重要になります。家庭裁判所は、遺産分割協議案の内容を確認し、不在者の法定相続分が確保されており利益が守られていると判断すれば、権限外行為許可を出します。
帰来時弁済型の遺産分割
上記のように、不在者に法定相続分を確保する形で遺産分割協議を成立させた場合、不在者財産管理人は、相続した財産を、不在者が戻るまで長期間にわたり管理し続けなければなりません。
このような不都合を避けるために、帰来時弁済型(きらいじべんさいがた)の遺産分割という方法が利用されています。
帰来時弁済型の遺産分割とは、遺産分割の段階では、不在者には財産を相続させず、不在者が帰来した場合には、特定の相続人が不在者に対して代償金等を支払うという内容の遺産分割です。
帰来時弁済型の遺産分割が利用できるのは、不在者が帰来する可能性が低く、不在者に直系卑属がいない場合等です。また、相続財産が多い場合には認められづらくなりますし、不在者が戻って来た場合に代償金等を支払うことになるため、相続する方に資力があることも重要となります。
家庭裁判所は、これらの事情を総合して、帰来時弁済型の遺産分割が不在者の不利益にならないかどうかを判断して、権限外行為の許可を出しているようです。
居場所が分からない人がいる場合の手続き その2
遺産分割協議をしたい場合、相続人のうちの1人が、7年以上行方が不明だったとします。
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要がありますので、行方不明者を除いた相続人だけでは遺産分割協議を成立させることができません。
この場合、行方不明者について、家庭裁判所で失踪宣告をしてもらった上で、失踪宣告を受けた行方不明者の相続人に協議に参加してもらい、遺産分割協議を成立させることができます。
失踪宣告は、従来の住所(居所)を去って容易に戻る見込みのない不在者について、利害関係人からの申立により、家庭裁判所が失踪宣告を行い、生死不明の不在者を法律上死亡したものとみなす制度です。死亡したとみなされた時点で、不在者について相続が開始することになります。
失踪宣告の分類
失踪宣告は、普通失踪と特別失踪に分かれています。不在者の生死不明が一定の危難等により生じたものか、そうでないかによる区別です。
普通失踪 | 特別失踪 | |
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要件 | 不在者の生死が7年間明らかでない。 | 震災、船舶の沈没、戦争等の危難に遭遇した方の生死が1年間明らかでない。 |
効果 | 7年の期間満了時に死亡したものとみなす。 | 危難が去った時に死亡したものとみなす。 |
失踪宣告と不在者財産管理人選任の比較
失踪宣告も不在者財産管理人選任も、いずれも相続人が行方不明のときに利用できる手続ですが、法的な効果としては大きく異なります。
不在者財産管理人は、行方不明者が生存していることを前提に財産を管理する者を選任し、行方不明者に代わって遺産分割協議に参加させることを想定しています。
これに対して、失踪宣告は、行方不明者を死亡したものとみなすことになります。つまり失踪宣告を受けた行方不明者に相続が開始した扱いになります。
不在財産管理人を選任して遺産分割協議を行う場合には、家庭裁判所の権限外の許可を得て、不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加します。
失踪宣告の場合には、行方不明者は死亡したものとみなされますので、行方不明者の相続人に遺産分割協議に参加してもらうことになります。
失踪宣告 | 不在者財産管理人選任 | |
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行方不明者の要件 | 一定の期間生死不明であること。 | 行方不明者が、従来の住所(居所)を去って容易に戻る見込みがないこと。 ※期間要件はありません。 |
効果 | 一定期間に死亡したものとみなす。 | 行方不明者の財産を不在者財産管理人が管理する。 死亡したものとみなされません。 |
概要
申立する裁判所(管轄裁判所) | 不在者の方の従来の住所地・居所地を管轄する家庭裁判所 |
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申立人 |
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申立費用(実費) |
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申立の必要書類等 |
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手続の流れ
- 申立から審判確定まで1年程度掛かります。