相続放棄とは
どういうときに放棄が必要か
亡くなった方の相続人にあたる方が、積極財産(たとえば、不動産などプラスの財産)を残していた場合に、これらの財産を相続人が受継ぐというのは、イメージがしやすいと思います。
しかし、消極財産(債務、いわゆるマイナスの財産)も同時に相続の対象になるということはご存じでしょうか。
亡くなった方に全く財産(積極財産)がないと思って何もしないでいる方がいますが、このような状況だと逆に、負債(消極財産)があるということもあり得ます。亡くなった方の負債は、相続人が支払わなければなりません。
亡くなった方の負債を引き継がないためには、相続放棄をする必要があります。
手続について
相続放棄は、家庭裁判所に書類を提出して行います。一般的に必要となる書類は次のものです(必要書類は、ケースにより異なります)。
- 相続放棄申述受理申立書
- 戸籍謄本類
- 亡くなった方の住民票の除票
これらの書類に、手数料(800円分の収入印紙)と郵便切手を添えて提出します。
書類の提出先は、被相続人の最後の住所地(亡くなった時の住所)を管轄する家庭裁判所です。
注意が必要なのは、相続放棄には期間制限があるということです。相続放棄ができるのは、「自己のために相続があったことを知ったときから3か月」です。
放棄するかどうかを決めるポイント
放棄しないとどうなりますか?(単純承認)
3か月以内に相続放棄の手続きをしないと(正確には、「相続放棄」も「限定承認(後述)」もしない場合)、法律的には、「単純承認」、すなわち、積極財産も消極財産もすべて、「単純に」受け継いだということにされます。亡くなった方の財産をもらえる反面、負債も返さなければならない、ということです。
ただ、「負債を返したくないので相続放棄します」と即決してしまうのはよくありません。相続放棄をすれば、プラスの財産ももらえなくなってしまします。負債があってもプラスの財産が多ければ、プラスの中から負債を支払えばよいので、相続放棄はせずに単純承認をしても、相続人に損はないのです。逆に、プラスよりマイナスが多ければ、放棄を検討するというのが、普通の考え方でしょう。
このように、相続放棄をするかどうかは、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかがポイントになります。
まずは亡くなった方の財産の調査を
しかし、例えば、あなたの身内の方が亡くなったとして、プラスとマイナスどちらが多いか、即座に正確な回答ができる人はいないのではないでしょうか。
そこで、亡くなった方にどんな財産がどれだけあったのかの調査(相続財産の調査)が必要になります。
具体的な調査方法としては、不動産については、役所から「名寄帳」などを取寄せて確認するという方法があります。預貯金の有無などは、亡くなった方が保管していた通帳や、郵便物などから確認する他、各金融機関に口座の有無について照会をかける方法があります。また、借金の有無を調べる方法としては、郵便物や請求書などの書類のチェックの他、信用情報機関への照会があります。
亡くなった方がご自宅で保管していた書類や、郵便物をチェックするだけなら、それほど手間はかかりませんが、金融機関への照会などは、照会書に記入したり戸籍謄本類などの書類をそろえたりしなければなりません。手間がかかる相続財産の調査についても、ぜひ当事務所にお任せください。
相続財産の調査が間に合わない場合には
先に述べたように、相続放棄には3か月の期間制限があります。
しかし、相続財産の調査にはそれなりの手間と時間がかかりますので、3か月ではどうするか決められない、という場合も起こり得ます。
このような場合は、裁判所に期間の延長(実務では熟慮期間の伸長と呼びます。)を申し立てることができます。
3か月が過ぎてから負債があることが分かった場合
これまで見てきたように、亡くなった方に負債がなければ、単純承認をしても問題はありません。ちなみに、単純承認の場合は、相続放棄とは異なり、裁判所に書類を提出するといった手続は必要ありません。あとは、遺産分割協議をしたり、相続登記や銀行預金の手続をしたりするなど、相続財産を具体的に分配していく段階になります。
しかし、負債がないと思って何もせずに過ごしていたら、亡くなった後3か月を過ぎてから、債権者から連絡がきた、という話もよくあります。
このような場合、上記3か月の期間の開始日を、「亡くなった時」からでなく「負債を知った時」から、として、裁判所に相続放棄を申し立て、受理されたケースがあります。ただ、例外的なケースにあたるため、3か月以内に相続放棄ができなかった事情を裁判所に説明し、資料も合わせて提出するなど、通常とは異なる処理が必要となります。お早目に当事務所にご相談ください。
亡くなった方の財産を使ってしまった場合
なお、3か月の期間内であっても、例えば、亡くなった方の預金を下ろして自分のために使った、あるいは不動産の名義変更をしたなどの行為は、相続を承認したものとみなされ、以降の相続放棄が制限されますので、注意が必要です。相続財産の調査が完了し相続放棄か単純承認か方針が決まるまでは、とりあえず、亡くなった方の財産には手をつけない、というのが無難かもしれません。
限定承認とは
単純承認か相続放棄か、判断に迷う場合
相続財産の調査をしたが、結局、プラスかマイナスか判断がしづらいという場合には、限定承認という方法もあります。
これは、簡単に言えば、積極(プラス)財産の範囲内で、消極(マイナス)財産についても責任を負うという前提で、亡くなった方の立場を承継するという手続きです。(この手続きも、プラスだけ引き継ぎ、マイナスは引き継がないということではありません。)
ちょっと聞くと、この手続が万能のように思えます。しかし、相続人が全員で行わなければいけないため、相続人の足並みをそろえるのが大変な場合あります。また、申し立て後は、相続財産管理人が選任され、また、債権者に対する官報公告がなされるなど、実際にもそれなりの手間がかかり、弁護士費用などもそれなりの金額になります。さらに、税金面でも、相続税だけでは済まなくなるケースもあります。このように、限定承認は複雑な問題があることから、あまり利用されていません。
プラスかマイナスか判断しづらい場合は、まずは調査期間の延長(熟慮期間の伸長)を申し出て十分に相続財産の調査を行い、それでも単純承認か相続放棄か決めかねる場合に、限定承認を選択する、ということになろうかと思います。
手続について
限定承認の手続は、相続放棄と同じく、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に書類を提出して行います。必要となる書類も、相続放棄の場合とほぼ共通しています。
いずれにせよ、限定承認の申し立てということになると、なかなかご本人で手続きをすすめるのは難しいようにも思いますので、当事務所にご相談ください。