相続トラブル事案の概要
東京都内で暮らしていた日本人男性が亡くなり、遺産は自宅不動産と預貯金がありました。相続人は亡くなった男性の子であるAさん(海外在住、日本人)と、Bさん(日本在住、日本人)の二人です(男性の奥様は、男性より先に亡くなっていました)。遺産の分割方法について、AさんとBさんの意見が折り合わなかったため、当事務所の弁護士がAさんから依頼を受けて、Bさんとの遺産分割交渉を行いました。
ご依頼の内容としてはよくあるパターンですが、注意すべきは、相続人のAさんが海外在住という点でした。
相続トラブル解決結果
海外の人が相続に関係する場合の問題点
相続人の中に海外在住の方がいらっしゃる、または、被相続人あるいは相続人が外国籍であることは少なくありません。この場合、相続に関係する人がすべて日本人というケースにはない、特有の問題点が出てきます。
①外国の法律で相続を進めなければならない場合がある
相続は、原則として、被相続人の本国法(その人が国籍を有する国の法律)が適用されます(法の適用に関する通則法36条)。被相続人が日本国籍であれば日本の民法が適用されますが、外国籍だった場合は、その国の法律が適用されるため、まずは法律を調査するところから始めなければなりません。
②海外にいる相続人の居場所が分からない、連絡がとれない
遺産分割協議を進めたくても、相続人の所在がつかめない、あるいは連絡がつかない場合は、協議を進めることができません。その場合、不在者財産管理人の選任(民法25条)を家庭裁判所に申し立てて、その者を代わりに遺産分割協議に参加させる場合があります。
また、所在不明の状態が長期間継続していれば、失踪宣告(民法30条)を申し立てる場合もあります。
③戸籍、住民票、印鑑証明などの書類がとれない
日本国籍の人であれば、戸籍によって親族関係を証明できます。しかし、戸籍制度がある国は日本を含めわずかです。戸籍制度のない国の国籍を持つ人が相続に関わってくる場合、戸籍以外の手段で相続関係を証明しなければなりません。
また、日本国籍であっても、海外居住のため住民登録を抹消している人は、住民票や印鑑証明を取ることができません。相続手続を進めるためには、代わりの書類を取得する必要があります。
なお、海外居住者等がいる場合に、どのような書類が必要になるかは、提出先により異なります。したがって、事前の確認が必須です。
今回のケースの場合
印鑑証明の代わりの書類
今回ご依頼いただいたケースでは、被相続人及び相続人は全員日本国籍であり、相手方となる相続人とも連絡はとれたので、適用される法律や、相続関係の証明等についての問題はありませんでした。弁護士がAさんの代理人として、Bさんを相手に交渉、調停を行い、遺産分割調停が成立しました。
ただし、Aさんは日本での住民登録を抹消していらっしゃったので、銀行の預貯金の相続手続に必要とされる印鑑証明の代わりに、署名証明(サイン証明)を取得していただきました。
署名証明(サイン証明)とは、日本で住民登録がなく、外国に居住している人に対して、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給される書類で、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
署名証明は、2種類あります。在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うタイプのものと、申請者の署名を単独で証明するタイプのものがあります。相続の場合、遺産分割協議書に証明書を綴り合わせたものがよく利用されます。
相続人に海外居住者がいらっしゃる場合は、弁護士にご相談ください
海外居住者の方が相続に関係する場合は、特有の問題点があり、通常の相続よりも手続きが複雑になります。
ご自身が海外居住である、または相手方が海外居住であるなどの事情があり、相続手続を進めることに不安がある方は、まずは弁護士にご相談ください。