お父さんが亡くなった後、お母さんが住む場所に困る?!
高齢のお父さんお母さんが、お父さん名義の自宅に住んでいる、というパターンはよくありますが、この場合、お父さんが亡くなると、法律が改正される前の現段階では、残されたお母さんに次のような問題が起こることがあります。
生活資金を確保できない
遺産分割でお母さんが自宅を取得した場合、お母さんが自分名義の家に住むことは、法律的に何の問題もありません。
しかし、法定相続分を前提とした遺産分割の場合、財産的価値の高い不動産を取得した相続人は、そのほかの財産を取得できなくなってしまいます。
例えば、自宅をお母さんが取得したために、預貯金をお母さん名義にすることができず、お母さんが日々の生活費に困るという問題が起きてしまいます。
家を追い出されてしまう
遺産分割でお母さん以外の相続人、例えば息子さんが自宅を取得した場合、お母さんは自宅の所有者となった息子さんの同意がない限り、自宅に住み続けることはできません。
息子だから当然同意するだろうと思われるかもしれませんが、親子関係が良好でない場合はそうとは限りません。
引っ越しをするにしても、慣れない環境で生活を始めるのは、高齢のお母さんにとっては大きな負担となります。
配偶者居住権とは
新しい権利「配偶者居住権」
このような問題に対応するために、今回の相続法改正で、「配偶者居住権」という新しい権利が創設されました。
配偶者居住権とは、相続開始の時に、被相続人所有の建物に配偶者が居住していた場合に、その建物を対象として、遺産分割終了後にも原則として終身または一定の間継続して配偶者にその建物の無償使用を認めることを内容とする法定の債権をいいます(1028条1項本文)。
配偶者居住権も財産ではありますが、所有権に比べるとその評価は下がります。
そのため、被相続人の死後に、預貯金など生活資金を確保しつつ、配偶者が自宅にそのまま居住することができるようになります。
配偶者居住権が認められる場合
- 相続開始時に被相続人が対象建物を所有すること
被相続人が配偶者と対象建物を共有していた場合は、配偶者居住権は認められますが、配偶者以外の人と共有していた場合は認められません。 - 相続開始時に配偶者が対象建物に居住していること
- ①遺産分割協議(調停)②遺贈または死因贈与③家庭裁判所の審判のいずれかにより、配偶者居住権の取得が認められること
配偶者居住権は当然に認められる権利というわけではなく、①②③のいずれかによらなければ認められません。
配偶者居住権の注意点
- 配偶者居住権の存続期間
配偶者居住権は、原則として終身(配偶者が生きている間)存続します(1030条本文)が、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判で、それよりも短い期間を定めることもできます(1030条ただし書)。 - 配偶者居住権の消滅
配偶者居住権は、上記1で定めた存続期間の満了、配偶者の死亡、対象建物の滅失等の事由により、消滅します。 - 配偶者居住権の登記
配偶者居住権は、登記しなければ第三者に対抗することができません(注)(1031条2項)。
対象建物の所有権者となった相続人は、配偶者と一緒に、配偶者居住権の登記を申請する義務を負います(1031条1項)。
(注)「第三者に対抗することができない」とは…
建物を目で見ても、それが「誰のものか=誰が所有者か」はわかりません。
不動産(土地、建物)には、不動産ごとに登記簿が設けられていて、これに所有者として記載されていなければ、「この建物の所有者は私です」と他の人に主張することはできません。
配偶者居住権も同じで、登記簿に配偶者居住権者として記載されていなければ、「私はこの建物の配偶者居住権をもっています」と他の人に主張することはできません。 - 配偶者居住権の譲渡禁止
配偶者居住権は、配偶者の住まいの確保のために認められる権利なので、第三者に譲渡することはできません(1032条2項)。 - 配偶者居住権の制度の施行日
配偶者居住権についての規定は、2020年4月1日に施行されます。
具体的には、2020年4月1日に開始した相続、つまり、この日以降に亡くなった人の相続について、新しいルールが適用されます。また、同日前にされた遺贈について、改正法の適用はなされないと規定されていますので(改正附則10条2項)、配偶者居住権を設定するという遺言は、同日以降に作成されたものである必要があります。
配偶者居住権については弁護士にご相談ください。
配偶者居住権は、今回の相続法改正により新しく創設される権利なので、どのように活用していくかはこれからの課題といえる部分もあります。
また、配偶者居住権の財産的評価は、配偶者が取得できる自宅以外の財産の範囲や、相続税の計算に影響するので、遺産分割協議や遺言をする場合は、配偶者居住権の財産的評価が重要なポイントになります。
高齢のご両親の一方が亡くなり、残された親御さんのお住まいをどうするか、ご自身の死後、残される配偶者の方のお住まいをどうするか、お悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
なお、今回の相続法改正では、配偶者短期居住権の制度も創設されました。これについては、次回の記事でご説明します。